「楽石庵閑話」~【第68話】日立鉱山の亜鉛鉱石
本年も宜しくお願い申し上げます。
日立鉱床は、Re-Os年代決定法により国内最古のカンブリア紀の生成と明らかにされているが、2019年には不動滝鉱床産の鉱石在庫から新鉱物日立鉱が発見され、最近とかく話題の多い鉱山である。さて昨年、日立本坑付近のズリ産とされる一寸珍しい塊状閃亜鉛鉱標本を入手したので、含銅硫化鉄鉱主体の日立鉱床では中々見ることの出来ないこの閃亜鉛鉱の特徴を、他鉱山産の亜鉛鉱石と比較してみた。
まず産出鉱床は、本鉱床帯と入四間鉱床との中間でs33年に本格開発が始まり、亜鉛鉱富鉱部も採掘された主力鉱床だった藤見鉱床群であろう。藤見鉱床群は下位の酸性片岩と上位の塩基性片岩に挾まれ、酸性火山岩に伴う黒鉱鉱床に類似するとされるが、広域変成作用に続く接触変成作用を受けて鉱石の産状は複雑であった。筆者も在学中に本鉱山を訪問し、藤見鉱床下部で名物菫青石を採集させてもらったが、このような亜鉛鉱石を見ることはできなかった。それではこの鉱石の産状を、色々な国内他鉱床産の亜鉛鉱石と比較してみよう。
(1)日立鉱山産閃亜鉛鉱
日立鉱山は別子・足尾鉱山と共に三大銅山の一つとされ、首都圏からも近く格好の採集地と思われるが、見栄えの良い鉱物(結晶)が採れないからだろう、鉱物マニアには産地として今一つ人気がないようだ。
今回紹介する標本も、緻密な細かい閃亜鉛鉱の塊状鉱で、劈開の反射が強く結晶度は高いと思われるが(二枚目)、前述のように接触変成作用の影響が推定される。また藤見鉱床で脈石として産した重晶石では・・・と思われる白色鉱物(三枚目)がみられるが、他に目立った脈石鉱物は確認できない。
(2)小坂鉱山内の岱鉱床産
黒鉱は海底での熱水噴出-堆積活動により形成され、鉱床形成温度は通常300℃以下とされる。また一般的には顕著な広域熱変成作用を受けておらず(貫入岩による局部的熱変質を除く)、脈状黒鉱と云われる堆積後の続成作用により形成された浅熱水鉱脈型の結晶産出が特徴とされる。
本標本は鉱床下部の珪質黒鉱で、脈状黒鉱と考えられる写真上部の小晶洞中に、閃亜鉛鉱と黄鉄鉱の小結晶がみられ(二枚目)、また重晶石の板状結晶も一部に含まれている(三枚目)。
(3)花岡鉱山松峰鉱床産
典型的な黒鉱鉱石で、含まれる閃亜鉛鉱と方鉛鉱は区別できず両方が密雑に混じった黒モノと云われる鉱石である。また所々に細かい重晶石(二枚目)を伴い、「獅子の目玉」と通称される黄銅鉱(三枚目)がみられる。
(4)尾太鉱山本産
尾太鉱床は、中熱水〜浅熱水域(200~350℃程度、場合により100℃付近まで)で生成されたと考えられ、裂罅や晶洞部の美しい結晶群の産出で知られる。本標本は「落合直り」による亜鉛鉱の富鉱部とされ、黄銅鉱(三枚目)も含まれる。
(5)細倉鉱山富士本産
細倉鉱床は浅~中熱水性の鉱脈型鉱床で、鉱化作用には硫黄同位体比の異なる少なくとも2種の熱水溶液が関与したと考えられており(これらはマグマ起源Aと天水起源Bとされる)、A鉱液の活動変化により晶出鉱物が変化したと推測されて、これによる蛍石を伴う綺麗な縞状鉱で有名である。本鉱山は脈石として水晶を多産したことでも知られ、本標本にも裂罅に水晶がみられる(三枚目)。
(6)神岡鉱山栃洞坑
神岡鉱山はかつて東洋一の亜鉛鉱山として知られ、飛騨変成岩類中の結晶質石灰岩を交代したスカルン鉱床である。鉱石は特有のスカルン鉱物を伴う「白地鉱(石英や方解石)」「杢地鉱(灰鉄輝石)」と称される独特の外観だが、意外にも鉱石中の閃亜鉛鉱の細かい産状は、今回の日立産鉱石との類似性がみられる気がする。しかし本標本は主に灰鉄輝石を脈石として伴い、スカルン鉱床の特徴もみせて日立鉱床産とは産状が異なる。
(7)生野鉱山青草鉱床桜
生野鉱床は中心部から外側へと温度が下がる累帯構造を持ち、典型的なゼノサーマル鉱床で多金属型としても知られる。桜は青草鉱床のPb・Zn帯に属し、部分的に金・銀品位の高い部分もあったが、本標本は閃亜鉛鉱主体の縞状鉱である。さらに鉱山側説明では、石英・方解石脈に伴って硫錫銀鉱を産し、この標本にも含まれる・・・とのことだったが、残念ながら肉眼ではこれを確認できない。
まとめ
今回紹介した日立鉱山産亜鉛鉱石は、一見特徴の無い閃亜鉛鉱の塊状鉱だが、黒鉱鉱床産や浅~中熱水鉱床(ゼノサーマル鉱床を含む)、さらにスカルン鉱床産とは産状が明らかに異なり、日立鉱床産閃亜鉛鉱鉱石の特徴が明らかになったのでは・・・と思う。
【寄稿】坂本憲仁(BS45)





















