趣味の話題 ~「楽石庵閑話」~【第33話】鏡肌と油肌

「楽石庵閑話」~【第33話】鏡肌と油肌

石の話題に一寸そぐわぬ色っぽい言葉だが、れっきとした鉱山用語で別子型鉱床の鉱石にみられた現象である。

別子型鉱床が低温高圧の強い動力変成を受けて、褶曲模様や「ハネコミ」と云った現象がみられたことは前回紹介したが、今回の「鏡肌」と「油肌」も、鉱床形成後の急激な地殻変動の影響で生じた様々な痕跡と考えられる。鏡肌(別名、辷り肌)はその最たるもので、小規模な断層の割目に沿ってお互いの鉱石が擦り合い、摩擦熱の影響で双方の接触面だけが溶けて、磨かれた鏡のように表面がツルツルなのが特徴である。坑内作業員は神社のご神体の鏡の如く輝く目出度い鉱石として珍重し、神棚に飾ったと伝わる。

高知県東向(コチムキ)鉱山は秩父古生層とされる輝緑凝灰岩中に胚胎し、鉱石は別子型鉱床としては金・銀含有量が高いとされ、Au:5~10g/t、Ag:15~20g/tの記録がある。本標本には、部分的ではあるが黄鉄鉱表面が「鏡肌」とされる光沢を持つ。

一方、「油肌」は激しい緑泥石化作用により片理に沿って緑泥石が発達し、真珠光沢を放つものである。高知県白滝鉱山は三波川結晶片岩帯中の典型的別子型鉱床で、変成度が比較的高いとされる千枚質角閃緑泥片岩中に、母岩の層理にほぼ並行して胚胎する。また母岩の変成度が稍々低い、御荷鉾帯の大久喜鉱山でもみられた。

【東向鉱山産】

黄鉄鉱表面が「鏡肌」と呼ばれる光沢を持ち、擦れて出来たと考えられる筋状の傷もみられる。

【白滝鉱山産】

低品位の所謂「ガリ鉱」で、片理に沿って割ると真珠光沢の緑泥石が「油肌」を呈する。

【寄稿】坂本憲仁(BS45)

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