「楽石庵閑話」~【第57話】輝安鉛鉱
前投稿では、鹿児島県日ノ本鉱山産紅安鉱と大口鉱山産方安鉱を取り上げたが、今回は北海道南西部の面白い鉱床を取り上げてみよう。渡島半島の地質は、東北裏日本の延長:グリーンタフ地域に属し、主に新第三紀の激しい海底火山活動で形成された火山岩・火砕岩と火成岩類で構成されている。また本地域は多金属鉱化作用でも知られており、半島西側は稲倉石‐大江地域はじめインカローズと称される綺麗な菱マンガン鉱を産出したマンガン鉱床が分布し、東側には手稲‐千歳区域で金銀鉱山が並ぶ等、特徴ある鉱化帯がみられる。
今回取り上げる洞爺財田鉱山は、洞爺湖北東部に位置し、戦前日鉱により黒鉱型鉱床が稼行され金銀鉱石として出鉱された。本地域には中新世長流川累層の流紋岩質凝灰角礫岩類が分布し、強い粘土化作用を受けており多くの耐火粘土・蝋石鉱床が分布している。黒鉱鉱床は凝灰角礫岩層上部のモンモリロン石帯中の塊状硫化物鉱床で、黒鉱鉱床中に介在する鉱化母岩団塊中からは、硫黄や雄黄・鷄冠石と云った砒素鉱物さらに石英・重晶石及び輝安鉱の集合体を産して注目された。戦後は一時黒鉱鉱体に伴う石膏を採掘し、さらに(パイロフィライト)—カオリン帯中の耐火粘土や蝋石をs30年頃まで採掘した。
近年鉱山跡のズリで採集される重晶石脈部分から、バナビデス鉱や輝安鉛鉱と云った硫塩鉱物が確認されて注目されている。前書きが長くなったが、ズリで採集された硫塩鉱物と戦前の黒鉱標本を紹介しよう。
1.輝安鉛鉱
輝安鉛鉱は細かい重晶石結晶を含む粗質部分に、輝安鉱に似た黒色毛状結晶の集合体として含まれる。本標本ではバナビデス鉱も含まれるようだが確認できない。
2.含銀黒鉱
戦前の実績では、黒鉱の粗鉱品位がAu:15~25g/t、Ag:500~1000g/tとの記録が残っている。本標本は細かい重晶石を伴う含銀黒鉱だが、銀鉱物としては輝銀鉱或いは濃紅銀鉱等の硫塩鉱物であろう。
3.輝銀鉱
本標本は黒色硫化鉱物を含む粗鬆質部分で、輝安鉱は認められないが、破面(三枚目)から輝銀鉱を含むと推定される。
【寄稿】坂本憲仁(BS45)