趣味の話題 ~「楽石庵閑話」~【第56話】紅安鉱

「楽石庵閑話」~【第56話】紅安鉱

昔から鉱物収集家が集めるべき国産鉱物100種と云われるリストがあるようだが、現在は産地の消滅等で大半は入手不可能・・・たまに標本市場に出ても普通の方が買えるような値段ではない。でも全国の鉱山訪問をしていた頃、そこにお勤めの先輩から珍しい鉱物標本を貰うこともあり、今回はそんな鉱物標本を紹介しよう。

鹿児島県日ノ本鉱山産の紅安鉱はコレクター必携の銘柄標本として著名だが、近年ズリで採取されたパッとしない標本が知られている程度である。そんな紅安鉱の特徴が良く分かる往時の標本を、学生時代訪問した鉱山で「今どきズリで採集は無理だよ・・・」と云われ、運よく頂戴することが出来たのである。

日ノ本鉱山はその歴史や詳細は不明であるが(日本鉱産誌にも記載がない)、鉱床は四万十累層群中の輝安鉱石英脈で、東隣では西錫山鉱山が黄鉄鉱等の硫化鉱と錫石を採掘し、さらにその東側に藩政時代から錫鉱が採掘された有名な錫山鉱山があり、この地域で鉱化温度が低温から高温側に移化していると考えられる。

さて紅安鉱(Sb2S2O)の生成条件は、輝安鉱(Sb2S3)が酸素の流体にさらされて酸化され、通常は硫黄が酸素によって完全に置き換えられ方安鉱(Sb203)へと変化するが、稀に酸化が途中で止まり硫黄1個を酸素に置き換えた紅安鉱(Sb2S2O)が生成される。このような生成条件のため、輝安鉱の産地は311ヶ所と多いが紅安鉱は19ヶ所と限られる。なお参考品として大口鉱山下牛尾坑産の方安鉱を最後に紹介する。

1.輝安鉱

頂戴した標本は小指の先程で、紅安鉱(右側)に一部輝安鉱が含まれている。

2.紅安鉱

紅安鉱は写真で見ると深紅色味が消えて鋼灰色を呈するが、その独特の放射状集合(三枚目)を確認できる。

3.ベルチェ鉱

ベルチェ鉱特有の青錆色が目立つが、紅安鉱は一緒に認められない。

4.方安鉱

輝安鉱の針状結晶の間に、帯黄灰色の方安鉱の微結晶が多数みられる。

【寄稿】坂本憲仁(BS45)

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