趣味の話題 ~「楽石庵閑話」~【第67話】尾去沢鉱山の方鉛鉱

「楽石庵閑話」~【第67話】尾去沢鉱山の方鉛鉱

尾去沢鉱山では、s30年代後半には約500条あった既存鉱脈の枯渇により対象鉱種を銅鉱に絞っており、s38年には鉛鉱の採掘を終了し、本鉱山産の方鉛鉱の鉱石標本は意外に少ないようである。さて終活で尾去沢産方鉛鉱の在庫を整理していると、黒い方鉛鉱(一枚目写真)が混じっており(今まで気にもしていなかったが・・・)、よく調べると方鉛鉱の劈開面に黄銅鉱がメッキ状に付いている(二~三枚目)。今回はこの事象に関して、手元在庫標本を色々調べた結果(素人の勝手な推測だが・・・)を述べよう。

N先生(黄銅鉱病変現象の研究で知られる)にこの産状に付きご意見を伺い、下記のようなコメントを頂いた。

①黄銅鉱と方鉛鉱は結晶構造で類似性は認められず,また方鉛鉱と黄銅鉱には固溶関係はなく、閃亜鉛鉱の病変状黄銅鉱組織の如き同時沈殿も離溶も起こらない。

②晶出順序は、先に方鉛鉱が形成し後で方鉛鉱の割目に黄銅鉱が形成し、両者の晶出順序は異なったと考えられる。一方黒鉱の病変状黄銅鉱組織の場合は、黄銅鉱と閃亜鉛鉱は同時に形成したと考えられ、黒鉱のような病変状組織とは違うと思われる。

③黄銅鉱が形成する時に硫黄を供給する必要があり、恐らく方鉛鉱の鉛が溶解し,硫黄の供給源となることで方鉛鉱の隙間にこの様な黄銅鉱ができたと思われる。

なおN先生によれば、黒鉱鉱床産の黒色閃亜鉛鉱も成分的には鼈甲亜鉛で、原因は鉄ではなく黄銅鉱病変現象の影響とのことである。

普通の方鉛鉱は、皆サンご存じの如く鉛灰色で明瞭な劈開面を持ち、肉眼で容易に区別が出来る硫化鉱物の一つである。この例外として尾去沢鉱山からは、明治時代に「ハリス鉱」と呼ばれたデュルレ鉱(Cu31S16)化した方鉛鉱結晶が産出している(第36話を参照)。戦後も方鉛鉱結晶表面が輝銅鉱(Cu2S)化した見事な標本が産出しており、方鉛鉱結晶が晶出後に銅成分を含んだ熱水鉱液による変質を受ける鉱化作用があったと推定される。即ち、即ち酸性熱水により方鉛鉱の硫酸鉛鉱化が起こるのが一般的で(多数の事例がある)、本鉱山でのみ知られる鉛の二次鉱物生成を伴わない方鉛鉱のハリス鉱化(銅鉱化)は、かなり特異な現象と思われるのである。

次は本鉱山産の方鉛鉱鉱石で、黄銅鉱や閃亜鉛鉱を含まぬ標本とそれらを含む標本の方鉛鉱外観を比較する。

まあ黒色方鉛鉱は、鉱物マニアの喜ぶような珍しい鉱物ではないが、尾去沢鉱床の複雑な鉱化条件を調べる上で貴重な珍品標本と云えるのではなかろうか。

尾去沢鉱床からは、稼行時に綺麗な黄銅鉱結晶が大量に産出し標本市場でもよく見かけるが、最後に本鉱床の受けた珪化作用・角礫化作用そして二次富化変質作用を被った、面白い黄銅鉱鉱石を紹介しよう。

その中で特に鉱山で「ピーコックオア」と呼ばれた、青~赤銅色を呈する二次富化変質作用を被り斑銅鉱化した黄銅鉱鉱石の存在は、今回紹介した方鉛鉱の変質現象とも関連する興味深い標本であろう。

【寄稿】坂本憲仁(BS45)

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