「楽石庵閑話」~【第34話】色々なキースラガー鉱床
日本鉱業協会発行の「日本の鉱床総覧」(上巻)には、キースラガー鉱床として82鉱山が記載されている。現在ではキースラガー鉱床は、別子型塊状硫化物鉱床と通称されることが多く、一般的に玄武岩起源の緑色岩/塩基性片岩を伴う層序規制型銅鉱床のタイプの一つとされる。この名称も西南日本外帯、特に三波川変成帯に分布していれば納得できるが、地質帯区分では全く別の地域にも有力な「キースラガー鉱床」が幾つかあり紹介する。
①下川鉱山(三菱金属鉱業) 北海道上川郡下川町斑渓(パンケ)
鉱床付近は先白亜紀日高累層群の泥質岩と変質玄武岩からなり、下川輝緑岩類の研究により海嶺型ソレアイト玄武岩的特徴を持つとされる。本鉱床は同型他鉱床と較べ鉱石中のCo量が多い特徴があり(Co品位0.22%)、鉱床は母岩の変成度が低い事等から、大規模な再結晶作用を伴う広域変成作用は無かったとされる。
②日立鉱山(日本鉱業) 茨城県日立市宮田町
古生代火山岩累層中に胚胎される多数の鉱床は、下位の酸性片岩と上位の塩基性片岩に挾まれる藤見鉱床群と、厚い塩基性片岩中の不動滝鉱床群に大別され、日立-田老型鉱床と称されることもある。また2014年に「JAMSTEC」によるRe-Os同位体分析で、鉱床生成年代がカンブリア紀で列島最古の鉱床であることが明らかなった。さらに2019年には不動滝鉱床産鉱石から新鉱物「日立鉱」(Pb5Bi2Te2S6)が発見されている。
③土倉鉱山(中外鉱業) 滋賀県伊香郡木ノ本町土倉
土倉鉱床は、西日本内帯の未(弱)変成中・古生層中に胚胎する稀有の例として知られている。鉱床は美濃帯粘板岩・頁岩を主とする被圧砕混成岩帯中に、レンズ状~芋塊状鉱体が数珠状に胚胎する。鉱石は細粒・緻密な黄鉄鉱を主体とし、黄鉄鉱中のCo濃度が非常に高いと云う特徴を持つ。
④柵原鉱山(同和鉱業) 岡山県久米郡柵原町久木
本鉱山は二畳紀中期に形成された火山性硫化物鉱床と考えられ、鉱床は塊状乃至レンズ状をなし舞鶴層の流紋岩質火山岩屑層内に分布している(酸性火山岩に関係した鉱床として柵原型と呼ばれる)。鉱床は白亜紀の貫入花崗岩より接触変成作用を受け、黄鉄鉱の一部が磁硫鉄鉱や磁鉄鉱となっている。
【寄稿】坂本憲仁(BS45)