趣味の話題 ~「楽石庵閑話」~【第59話】日立鉱山の母岩・脈石

「楽石庵閑話」~【第59話】日立鉱山の母岩・脈石

日立鉱山産標本の最後は、有名な菫青石や母岩・脈石鉱物の類を紹介しよう。日立産脈石鉱物については、原鉱床形成後の複数回の変成作用による影響が論じられているが(渡辺 1960)、鉱床胚胎層の赤沢層は島弧火山活動による玄武岩等を原岩とする緑色片岩や角閃岩等で、一方の石炭紀大雄院層は石灰岩・砂岩を原岩とする大理石や千枚岩と酸性凝灰岩等を原岩とする珪質片岩からなり、夫々原岩の特徴が脈石鉱物にも反映されている。

本鉱山産の菫青石は戦前から良く知られた銘柄標本であるが、鉱山見学時に偶々採掘中の切羽で採集することができ、今となっては貴重な標本と思っている。それではあまり見栄えはしないが、本鉱床の特徴を伝える脈石・母岩標本を紹介しよう。

(1)高鈴坑産菫青石

高鈴山北面の赤沢層上部結晶片岩中には本鉱床群が分布し、鉱床を貫く石英脈中より本標本の様な菫青石柱状結晶を産した。この成因には諸説あって良く分からないが、本標本は見学時に有難く頂戴した端面付きの結晶である。

(2)藤見鉱床産菫青石

鉱床下部の切羽採集品で、硫化鉱を含む淡桃色白雲母中に鼠色の菫青石斑晶が多数含まれる。こんな石でも硫化鉱として採掘していたのだから驚かされる。

(3)藤見鉱床産直閃石

見学に同行したS君の採集品で、繊維状或いは細柱状結晶の集合をなし、外観から直閃石カミングトン閃石片岩と考えられる。

(4)不動滝鉱床産絹雲母片岩

本鉱床は赤沢層上部層の緑色片岩中に胚胎して下盤側に厚い絹雲母片岩帯を伴うが、本標本は熱水作用の影響を伺わせる絹雲母を伴う縞状鉱質部である。

(5)北の沢産硬緑泥石

大雄院層中のクロリトイド(硬緑泥石)斑状変晶は古くから研究され、同層石灰岩の阿武隈変成作用を受けた部分から産出し、本標本は旧石灰岩採掘場の転石として採集したものである。

【寄稿】坂本憲仁(BS45)

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