「楽石庵閑話」~【第46話】生野鉱山の新鉱物
生野鉱山は桜井鉱・生野鉱等の新鉱物で知られる歴史ある鉱山だが、同じ兵庫県内の三菱系明延鉱山の鉱員に云わせると「生野の鉱石は黒くて見栄えしない・・・」となる。生野鉱床は主に角礫凝灰岩等の酸性火砕岩よりなる白亜紀末期の生野層群と、これを貫く玄武岩等の裂罅系に胚胎するゼノサーマル型鉱脈鉱床で、明瞭な鉱石鉱物の帯状配列を示して、鉱床中心から外方へSn-Cu帯・Sn-Cu-Zn帯・Zn帯・Pb-Zn帯・Au-Ag帯・不毛の各帯が規則的に分布する多金属鉱床である。鉱床はその賦存位置により西部の太盛鉱床群、東部の金香瀬鉱床群、東北部の青草鉱床群に大別され、NS系の金香瀬鉱床は戦後も主力脈として採掘されs48年に鉱量枯渇で閉山した。今回は金香瀬鉱床千珠ヒ群から発見された、新鉱物の桜井鉱・ペトラック鉱と生野鉱を紹介しよう。
1.桜井鉱:(Cu,Fe,Zn)3(In,Sn)S4 等軸晶系 千珠本ピ産
神田で老舗鳥鍋屋を営む、アマチュア鉱物研究家桜井欽一博士に因み命名された。その産状は、石英脈を挟み黄銅鉱・閃亜鉛鉱そして黄錫鉱等が縞状構造を示す標本がよく知られているが、何故か肝心の桜井鉱を含む黄錫鉱部分から割れて欠落してしまうことが多い。千珠本ピで採集した標本も、緻密な黄錫鉱部分(矢印部)から肝心の部分が割れて三角形になってしまった。
2.ペトラック鉱:(Cu,Fe,Zn)2(In,Sn)S4 斜方晶系 千珠前ピ産
外国人のみよって金香瀬鉱床千珠前ピから記載された新鉱物である。同鉱は0.1mm以下の微粒で、桜井鉱・含インジュウム黄錫鉱(よく似た組成だが結晶構造が異なる)と一緒に含まれるとされるが、見ての通り鉄閃亜鉛鉱に含まれて真黒で、写真の撮りようもない無粋な外観(よく見ると暗緑灰色の黄錫鉱が含まれる)である。
3、生野鉱: Bi4S3 三方晶系 千珠前ピ産
セレンを少し含み、化学組成をBi4(S、Se)3と記す場合もある。この鉱物は戦前の足尾鉱山産Bi-W系鉱石標本にも屡々含まれており、事情によっては幻の「足尾鉱」となっていた可能性もある。本標本は古い里帰り標本で、自然蒼鉛に伴い矢印部に生野鉱が僅かにみられる。
【寄稿】坂本憲仁(BS45)