趣味の話題 ~「楽石庵閑話」~【第51話】細倉鉱山の亜鉛鉱石

「楽石庵閑話」~【第51話】細倉鉱山の亜鉛鉱石

既に廃止された栗原電鉄細倉駅周辺は、如何にも鉱山街と云う佇まいで思い出深い場所であった。近年、かつての鉱山関係者から細倉鉱山産亜鉛鉱石を色々頂戴したので、東北グリーンタフ地域の浅熱水性鉱脈産とは稍々異なる本鉱山産閃亜鉛鉱鉱石を紹介しよう。

本鉱床は、広域変質を受けた中新世細倉層の安山岩類・火砕岩類の裂罅を充填した浅‐中熱水性鉱脈型鉛・亜鉛鉱床であり、神岡鉱山と並び国内有数の亜鉛・鉛鉱山として知られていた。鉱脈数は160条に達するとされ、鉱床は断層・裂罅系で便宜上東から西へ 感天,富士,二貫匁の3区に大別される。また複雑な鉱化・変質プロセスが推定され、蛍石との縞状鉱やウルツ鉱(繊維亜鉛鉱)等他ではあまり見られぬ産出鉱物でも知られる。

1.縞状鉱石

閃亜鉛鉱や方鉛鉱と蛍石とが交互に沈殿・結晶化して縞状構造をなした。

2.ウルツ鉱(纎維亞鉛鉱)

本鉱山産閃亜鉛鉱は、早期に同質異像の高温型纎維亞鉛鉱として形成され後に閃亜鉛鉱に転化したとされる。

本標本は下6坑大竹ピ産とされ、繊維構造が長く典型的産状である。

3.亜鉛・鉛鉱石

本鉱山の主力脈だった富士本ピの鉱脈は、約1~10mm幅の閃亜鉛鉱-ウルツ鉱-方鉛鉱-黄鉄鉱の繰り返し構造で特徴付けられる鉱物層から成っている(大本他1992)。この鉱物の細かい縞状構造から、鉱化作用には硫黄同位体比の異なる少なくとも2種の熱水溶液の関与が考えられている。

本標本は石英脈を挟み、細かい閃亜鉛鉱(繊維状も含め)-黄鉄鉱-方鉛鉱の繰り返し構造が認められ、晶洞内にも結晶が発達しない細倉独特の鉱化条件がみられる。

4.水晶-方解石晶洞

変朽安山岩中の閃亜鉛鉱鉱脈を伴う晶洞で、水晶の周りに稍々桃色味を帯びた細かい犬牙状方解石(恐らくマンガン方解石)が生成している。しかし閃亜鉛鉱等の硫化鉱物は全く生成しておらず、北鹿の浅熱水性鉱脈に普通に見られる閃亜鉛鉱等の結晶を伴う晶洞の産状とは、その鉱化条件が異なっていると考えられる。

【寄稿】坂本憲仁(BS45)

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