「楽石庵閑話」~【第60話】縞状鉱
今回は一寸視点を変えて、鉱石標本の中でもその外観の面白さと、鉱床形成時の鉱化条件の複雑さを堪能できる縞状鉱を色々紹介しよう。前書きは簡単にして、実際の縞状鉱石は産出鉱山ごとに特徴があり、手元にある代表的な縞状鉱標本の産状と特徴を述べよう。
(1)豊羽鉱山第3筑後ヒ
本鉱山では産出鉱物等の特徴から、各鉱脈を前期脈,後期脈及び後期脈Ⅱに区分していたが(桑原他 1983)、その後の信濃の開発等により鉱化作用は各鉱脈の交叉関係や鉱質の違いなどから、第Ⅰ期~第Ⅶ期の7回の主要鉱化ステージに大別されている(成井他 1988)。今回紹介する筑後群は北西部のNE-SW走向の前期鉱脈で、第I期鉱化作用による鉛‐亜鉛‐石英脈からなり、特徴として閃亜鉛鉱の鉄含有量が低とされる。またインジウム含有量は、平均10~60g/t程度と後期脈(Ⅲ~V期)300~400g/tに比べて低い。
(2)細倉鉱山富士本ヒ
本鉱山の主力脈だった富士本の鉱脈は、約1~10mm幅の閃亜鉛鉱-ウルツ鉱-方鉛鉱-黄鉄鉱の繰り返し構造で特徴付けられる鉱物層から成っている(大本他 1992)。本標本は富士本特有の細かい縞状鉱で、縞状構造の中心部に黄銅鉱を含む黄鉄鉱部分がある。この縞状構造は大本他(1992)により、高温高塩濃度の鉱液が間欠的に低温低塩濃度の鉱液と混合することにより、monomineralic bandsが生成したと説明されている。
本標本は数mm~1㎝幅で蛍石と硫化鉱物が繰り返し層をなす典型的な産状である。
(3)清越鉱山2号ヒ
本鉱床の鉱化過程は中新世湯ヶ島層群中に、①広域的な変質作用 ②第一次の低品位石英の沈殿③第二次の高品位(銀黒)部石英の沈殿 ④第三次の方解石等を伴う低品位石英の沈殿 とされ、鉱物共生より鉱脈形成温度は、初期の高温より後期の低温と減退過程を辿っているとされる(赤塚 1977)。
本標本は、細粒質と粗粒質の石英が縞状を呈する典型的な銀黒鉱で、鉱山実習時に採掘切羽から採集した銀黒富鉱部である。
(4)別子鉱山筏津坑
別子鉱業所は、本山、筏津、余慶、積善の4鉱床群からなり、鉱床はいずれも三波川変成帯三縄層上部~主要部の塩基性片岩中に胚胎する。別子産含銅硫化鉄鉱鉱石には屡々綺麗な褶曲構造がみられ、代表的な本山鉱床産鉱石標本を紹介する。中央の石英部周囲には、これを取り囲むように磁鉄鉱の縞があり弱い磁性を示す。
さて筏津坑は別子本坑の東方4kmの支山で、鉱床は緑泥片岩中に胚胎し常に珪質岩を伴う。別子型鉱床では酸化鉄(赤鉄鉱or磁鉄鉱)-石英片岩の組合せが屡々みられ、これらの縞状構造は鉱床生成時の原構造の残存と考えられ、三波川変成作用を考える上でも注目される。
本標本は、石英脈を挟んで硫化鉱とマンガンチャートが帯状をなして磁鉄鉱脈も伴い、興味深い縞状構造を呈し、また石英脈中には磁鉄鉱とは異なる銀灰色の微粒がみられる。筏津坑は水銀四面銅鉱等希産鉱物の産出でも知られ、これは四面銅鉱では・・・と考えている。
(5)豊栄鉱山1号鉱床
本標本は閃亜鉛鉱と菱マンガン鉱との間に、菱マンガン鉱側へ犬歯状に黄錫鉱が発達している。黄錫鉱は高温~中温熱水鉱床で生成したとされるが、標本中央部は蛍石で、含まれる毛状の鉱物は恐らく毛鉱と思われる。
本鉱体は早期の熱変質(スカルン化)から、晩期の硫化物沈殿を伴う後退的熱水変質作用まで数度の異なる変質作用を蒙っており、鉱化条件の急激な変化で蛍石・炭酸塩鉱物や毛鉱等の低温生成物が大量に出現し、本標本のような縞状鉱を形成したのだろう。
各地の異なる鉱床から産した縞状鉱標本、諸賢の感想は如何であろう?。
【寄稿】坂本憲仁(BS45)