趣味の話題 ~「楽石庵閑話」~【第36話】ハリス鉱

「楽石庵閑話」~【第36話】ハリス鉱

キースラガー鉱山の話題が続いたので、珍しい鉱物の話題を一つ。

ハリス鉱は明治時代に尾去沢鉱山で発見され、本邦鉱物図誌(1)にも「ハリス鉱と称するものは方鉛鉱(PbS)の正立方体を輝銅鉱(Cu2S)が置換した・・・」との記述があり、その後1962年にこれがデュルレ鉱(Cu31S16 )と確認されている。ハリス鉱は鯖江の久保田標本室旧蔵品の売立で、明治37年採集の標本を購入でき珍蔵してきたが、その後尾去沢産方鉛鉱結晶で表面が青色~赤紫色を呈し、表面が輝銅鉱化した標本を入手した。ハリス鉱標本では、結晶内部まで完全に置換されているようだが、こちらは結晶面と劈開面だけが輝銅鉱~方輝銅鉱化したと考えている。また周辺に鉛の二次鉱物は全く生成しておらず、銅分を含んだ酸性熱水により方鉛鉱がハリス鉱化する変質過程を示していると推定した。

一方で、方鉛鉱に硫酸鉛鉱(PbSO4)と銅藍(CuS)、それから硫酸鉛鉱とコーク石(PbFe3+3(PO4)(SO4)(OH)6)が生成している尾去沢産標本も入手したが、こちらは方鉛鉱の硫酸鉛鉱化に伴い各種二次鉱物の生成が起こる過程を示している。即ち酸性熱水により方鉛鉱の硫酸鉛鉱化が起こるのが一般的で(亀山盛鉱山等で同じ事例がある)、本鉱山の鉛二次鉱物生成を伴わない方鉛鉱のハリス鉱化は、かなり特異な現象と思われるのである。

【ハリス鉱】

旧久保田標本で、石英脈上にデュルレ鉱化した方鉛鉱結晶がみられ鉛の二次鉱物は生成していない。

【方鉛鉱】

葡萄状の水晶上の結晶表面が藍青色を呈する方鉛鉱結晶で、鉛の二次鉱物は全く認められない。

【硫酸鉛鉱と銅藍】

方鉛鉱脈に生成した無色透明な硫酸鉛鉱結晶と銅藍で、この組み合わせは珍しい。

【硫酸鉛鉱とコーク石】

硫酸鉛鉱化したガサガサの方鉛鉱脈中にコーク石を伴うもので、酸性熱水で鉱脈の溶脱と硫酸塩鉱物生成後に、多分火山性昇華物として自然硫黄が付いたと考えられる興味深い産状。

【寄稿】坂本憲仁(BS45)

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