「楽石庵閑話」~【第43話】錫石
錫鉱は地域偏在性が強く、国内では山陽-苗木帯と西南日本外帯の花崗岩類に錫含有量が高く、稼行にたえる錫鉱床は例外なくこの二帯の中に存在する。
外帯に属する九州では、鉱物産地として名高い尾平鉱床区と呼ばれる鉱脈型の気成~熱水鉱床や接触交代鉱床が分布する大分・宮崎県で錫鉱山が多数分布し、さらに鹿児島県錫山地域には、錫山型呼ばれる貫入した花崗閃緑岩に伴う鉱脈型錫鉱床を生成している。
他方、チタン鉄鉱系列に属する花崗岩が分布する山陽-苗木帯には、全国の錫生産量の90%を占めたとされる本邦随一の錫鉱山である明延鉱山等著名鉱山が稼行され、苗木一帯では花崗岩中のペグマタイトからも錫石を産した。
それでは各地の代表的な錫鉱山の錫石を紹介しよう。
【新木浦鉱山大谷坑】
本地域は木浦衝上と呼ばれる覆瓦構造を成し、鉱床は衝上面、特に石灰岩と粘板岩が接する部分に発達した。本標本は方解石中の錫富鉱部である 。
【豊栄鉱山1号鉱床】
1960年代に採掘対象が鉱床中・下部に移ると錫富鉱を出鉱し、本標本は俗に「石金」と呼ばれる富鉱部で、硬い石英中に細かい錫石が多数含まれて重い。
【見立鉱山見立本】
見立礫岩と二畳紀石灰岩との境界に胚胎した高温交代鉱床とされ、特有の含錫石磁硫鉄鉱である。錫石は一寸区別し難いが、石英部に細かい錫石の集合部が見られる。
【錫山鉱山】
藩政時代から採掘された有名な沸き上がり鉱床産で、四万十帯砂岩中の網状含錫石英脈である。
【明延鉱山智恵門15号脈】
智恵門脈群はs44年に向立入・押が始った有力脈で、主にⅡ期(銅-亜鉛)Ⅲ期(Sn-W)鉱化作用が観察された。本標本はⅢ期の典型的産状で、石英脈中に錫石と共に細かい灰重石を含んでいる。
【鐘打鉱山東部脈群】
本鉱山は古生代丹波層群を基盤としてW鉱化作用を受けた深熱水性鉱脈鉱床で、錫石は鉄マンガン重石・灰重石に伴い石英脈中から産する。
【福岡鉱山】
苗木型細粒黒雲母花崗岩中の石英脈から、戦前W鉱を出鉱しその際に緑柱石脈が発見された。本標本は石英中の緑柱石脈で、細かい錫石を伴っている。
【寄稿】坂本憲仁(BS45)