「楽石庵閑話」~【第19話】コバルト
前回は学術的に注目された宮古のドロマイト鉱床を紹介したが、今回は特殊鋼や磁性材料等に広い用途を持ち、最近はリチウムイオン電池の正極材料として需要が高まっているコバルト(Co)の鉱石について紹介したい。
Coは地域偏在性の高い元素で戦略物資として重視され、日本鉱産誌(Ⅰ-c)には僅か4鉱山(長登・堂ヶ谷・大勝・三陽)のみの記載である。スカルン鉱床の山口県長登鉱山以外は紀伊半島の四万十帯中の鉱脈鉱床群で、これらはCo鉱床を含む北山型と紀州鉱山で代表される紀州型鉱床に分類される(佐伯他 1972)。Co鉱床は白亜紀堆積岩類を貫く石英脈で、含Co硫砒鉄鉱の他に幾つかのCo砒酸塩鉱物が知られている。
各鉱山の歴史と概要は、以下の通りである。
①長登鉱山:創建時の奈良の大仏にここの銅が使われたと云う古い歴史を持ち、輝コバルト鉱の産地としても知られる。s7年から烏帽子坑でCo鉱が採掘されたが、戦後は中止となりs37年に閉山した。
秋吉石灰岩と花崗斑岩の接触部に鉱床は胚胎する。スカルン鉱物を伴う石英中に、輝コバルト鉱と僅かに黄銅鉱がみられる典型的産状である。なお跡地は史跡公園となった。
②堂ヶ谷鉱山:本地域のCo鉱床としては最も大きく、戦時中稼行されCo品位は1.0~1.5%と伝えられる。
石英脈中に含Co硫砒鉄鉱やアロクレース鉱等と蜜雑に混じっており、科博の加藤昭博士により本鉱と確認されている。
③大勝・三陽鉱山:戦時中一時期だけ稼行されたが、現在でも鉱物マニアの人気が高い産地である。
コバルト華 : 鮮やかな桃~赤色を呈する二次鉱物で、含Co鉱物に伴って産する。
アクロレース鉱 : 石英脈の盤際に暗鋼灰色の粒状をなし、グローコドート鉱とは区別し難い。
【寄稿】坂本憲仁(BS45)