趣味の話題 ~「楽石庵閑話」~【第64話】硫砒銅鉱

趣味の話題 ~「楽石庵閑話」~【第64話】硫砒銅鉱

ネットの情報では硫砒銅鉱の国内産地は63ヶ所、一方で硫砒鉄鉱は721ヶ所と10倍以上の違いがある。また硫砒銅鉱をよく産する黒鉱鉱山からの硫砒鉄鉱産出は、調べた限りでは殆ど無いようだ。一方、スカルン鉱床からの硫砒銅鉱産出が無いのは理解出来るが、この硫砒鉄鉱の違いは何故だろう?鉱物マニアにとり興味ある処だ。

さて硫砒銅鉱は高い硫黄蒸気圧下の熱水条件で生成するとされ、自然硫黄を伴う事例も多い。その典型的産地として知られる南薩型金鉱床、そして昔から硫砒銅鉱とそれと同質異像の関係にあるルソン銅鉱の産地として有名な手稲鉱山、そして黒鉱鉱床と云った代表的産地を紹介しよう。

(1)南薩型金鉱床は主に薩摩半島南西端に分布する第三紀南薩層群安山岩・凝灰岩中の塊状含金珪鉱で、中心部の珪化帯から側方或いは上方に粘土化変質帯→母岩と云う帯状配列がみられる。この珪化鉱体には、初生鉱物として黄鉄鉱・ルソン銅鉱・硫砒銅鉱がみられ銅藍や硫黄等も伴う。今回はその代表例として、春日鉱山産珪鉱中の硫砒銅鉱を紹介する。

(1~3枚目)春日鉱山第二富鉱体+30m坑産:凝灰岩中の珪化帯で、緻密多孔質の珪石空隙中の硫砒銅鉱。

(4~6枚目)同:弱変質部分で、細かい自然硫黄を伴い硫砒銅鉱(銀白色劈開面)が含まれる。

(2)硫砒銅鉱の銘柄標本は、何と云っても台湾金瓜石鉱山産で、国産品では手稲鉱山産にとどめをさす。手稲鉱山では三山鉱床鳥谷部からの硫砒銅鉱・ルソン銅鉱についての報告(渡辺1943)があり、核部のルソン銅鉱より周辺部に至る鉱物の配列状態は、ルソン銅鉱→硫砒銅鉱→四面安銅鉱→黄鉄鉱→石英・重晶石・黄鉄鉱・四面安銅鉱とされ、紅色塊状のルソン銅鉱に伴い硫砒銅鉱を産した。

(7~9枚目)担当係員の持っていた、鳥谷部産の小さいが綺麗な硫砒銅鉱の柱状結晶

(10~11枚目)盛時を偲ばせる塊状のルソン銅鉱で、硫砒銅鉱脈を伴う。

(3)黒鉱鉱床では、母岩の熱水変質帯から硫砒銅鉱が特徴的に産出したが、鉱体周辺の変質帯の調査・研究は「二、三の黒鉱式鉱床の変質帯の鉱物学的研究」(林 1961)で花岡鉱山堤沢鉱床、上北鉱山本坑鉱床、青森(奥戸)鉱山大滝沢鉱床につき詳細に報告されている。硫砒銅鉱はいずれからも産出しているが、手元に好標本のある花岡鉱山堤沢鉱床産と青森鉱山大滝沢産を紹介する。

(13~15枚目)堤沢露天掘りの変質帯白色粘土中から、薄板柱状の綺麗な分離結晶を産した。

(16~18枚目)奥戸層下部、石英斑岩との接触部の石英粗面岩質凝灰岩中で、黄色い自然硫黄を伴う。

【寄稿】坂本憲仁(BS45)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加