趣味の話題 ~「楽石庵閑話」~【第65話】重石と灰重石

趣味の話題 ~「楽石庵閑話」~【第65話】重石と灰重石

西南日本内帯には白亜紀後期~古第三紀の花崗岩類が広く分布し、これら花崗岩類は太平洋側から日本海側へ向かって領家帯,・山陽帯,・山陰帯の3帯に区分され、付随する鉱化作用は山陽帯ではW-Sn鉱化作用が卓越するとされる。山陽帯の東端では、チタン鉄鉱系苗木花崗岩類中のグライゼン化を伴うW-Sn鉱床が分布する。また近畿地方には、丹波帯中に深熱水性タングステン鉱化作用による大谷・鐘打W-Sn鉱床が知られ、灰重石(大谷)は花崗閃緑岩に関連し、鉄マンガン重石(鐘打)は黒雲母ホルンフェルス下部の花崗岩に関連するとされる。さらに西部では山口県を中心に、白亜紀花崗岩に伴う接触交代型のW鉱床(例えば喜和田鉱山)が分布する。

さてマグマからの熱水鉱液(ガス)の供給を受け形成される鉱床は、温度の低下と共にペグマタイト鉱床→気成鉱床、そして水の臨界温度である374℃以下で深(高温)熱水鉱床と名前を変えるが、鉱床形成深度や母岩等諸条件の影響でその境界は曖昧な事例が多いようだ。例えば先に述べた鐘打・大谷鉱床は、気成鉱床に分類される例が多いようだが、深熱水性タングステン鉱化作用(特に鐘打)とした方が良い気がする。

鐘打鉱山の鉱脈はドーム構造を示す丹波層中にあり、鉱床帯の下部には花崗岩類の存在することは疑いなく、ドーム構造の生成には花崗岩類の迸入が関与している。また大谷鉱山付近の丹波層は、ほぼ東西方向を軸とする背斜構造を呈し、その中核部に花崗閃緑岩が迸入している。さらに山陽帯の東端とされ、日本3大ペグマタイト産地とされる苗木・蛭川では、濃飛流紋岩と苗木型黒雲母花崗岩の北西縁に沿い,幾つかのW-Sn-石英脈が発達し恵比寿・遠ヶ根鉱山が有名である。また本地域各所のペグマタイト中にW-Sn脈がみられて、風化部から砂鉱として産出し、苗木後山の長石堀場からはペグマタイト中の石英脈から鉄マンガン重石が得られている。

1.山陽帯西端の島根・山口県の石英脈中の鉄マンガン重石

2.鐘打鉱山

本鉱床では鉄マンガン重石の方が早期晶出で、一部は明瞭な仮像となり灰重石により交代されている。

3.大谷鉱山

行者山には、丹波帯を貫く3km四方の行者山花崗閃緑岩体中の割目を充填した深成高温タングステン・錫・石英鉱脈が多数分布し、山腹の珪石を採掘した石切場跡からもW-Sn-石英脈がみられた。

4.蛭川・苗木

恵比寿,福岡両鉱床はいずれもSn-W-Bi鉱物を主とする鉱脈鉱床で,グライゼン化作用を伴う。グライゼンは3帯に分けられ,気成期から深熱水期に移化する過程がみられる。

次の写真は、本鉱山の特徴であるグライゼン化を受けた部分で、細かい黄玉や蛍石を含み、グライゼン化作用で生成した粘土鉱物の色調により、白地・黒地・青地と呼ばれ石英脈を中心に帯状配列を成したとされる。

次回は、フォッサマグナ以東のW-Sn-石英脈を紹介しよう。

【寄稿】坂本憲仁(BS45)

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