「楽石庵閑話」~【第25話】稲倉石鉱山の銀鉱物
菱マンガン鉱の色や模様の美しいものは、インカローズと呼ばれ装飾品に加工されており、真黒な二酸化マンガンの原料と云われても一寸違和感がある。国産標本で市場の人気が高いのは、やはり北海道稲倉石鉱山産であろう。本鉱山は明治年間に金銀鉱山として開発され、その後鉄興社により道内一位のマンガン鉱山として稼行されたが、S45年に隣接する北進鉱業大江鉱山と合併しS59に閉山している。鉱床は中新世のプロピライト及び同質火山砕屑岩中に胚胎する浅熱水性炭酸マンガン鉱脈鉱床で、1本の主脈とそれに鋭角に交わる数本の並行脈よりなっている。菱マンガン鉱は色と結晶形より①濃紅色で菱面体の結晶質 ②淡紅色の微結晶質 に大別され、前者は万盛鉱床通洞脈のみから産出し、後者の淡桃色鉱石が全菱マンガン鉱の80%を占めたと云われる。なお桃色を示す菱マンガン鉱は純粋なMnCO3に近い化学組成を有し、桃白色のものではFeCO3が、紫色・灰白色を示すものではこれに加えさらにCaCO3が多く固溶してくる。本鉱山では菱マンガン鉱は閃亜鉛鉱・方鉛鉱等の硫化鉱物を伴い、局所的に銀鉱物の濃集がみられた。今回は本鉱床の特徴を示すこの銀鉱物を紹介しよう。
【万盛鉱床通洞脈産】菱マンガン鉱は、濃紅色で菱面体の半透明結晶質
「濃紅銀鉱」 劈開面に濃紅色の同鉱がみられる
「銀黒」硫化鉱を密雑に交え脆銀鉱・輝銀鉱を含む
【万盛鉱床新生脈産】菱マンガン鉱は、淡紅~白色の微結晶質で透明性はない
「ピアス鉱」晶洞部に特徴的な結晶がみられる
「銀黒」様々な硫化鉱を密雑に交え輝銀鉱を含む
【寄稿】坂本憲仁(BS45)