「楽石庵閑話」~【第40話】河津鉱山のテルル鉱物
河津鉱山は蓮台寺鉱山とも呼ばれ古くから知られた伊豆の金銀鉱山で、中新世湯ヶ島層群の変朽安山岩中に多数の鉱脈を胚胎し、金・銀・テルル・ビスマス鉱を伴う比較的低温の熱水性鉱床と推定されている。またテルルの稀産鉱物類を多産することでも有名で、近年はマニアによる乱掘が問題となり全面的に採集行為は禁止されている。私はS44年の夏休みに、鉱山実習で中外鉱業清越鉱山に暫く滞在し、休日に担当者の方の案内で伊豆の金銀鉱山を回る事が出来た。河津鉱山はS34年に閉山し、当時は大沢バス停前にプレハブの管理人事務所があるだけだったが、事前の連絡で管理人がおみえになり幾つか鉱物標本を頂くことが出来た。
本鉱山産Te鉱物類は、石英中に銀灰色~黒色鉱物として粒状或いは筋状に含まれることが多く、その多くは肉眼による区別は不可能とされている。
(写真①~③)桧沢坑-20m産自然テルル・スティッツ鉱・ヘッツ鉱:桧沢坑特有の陶器質石英中に自然テルルを伴い、ブロンズ色微粒はスティッツ鉱(Ag5-xTe3)、黒色筋状部の銀白色微粒はヘッス鉱(Ag2Te)であろう。
(写真④~⑥)大沢坑大沢2号産ヘッス鉱・ヘムス鉱:入手時鉱山側の見立てはヘッス鉱だったが、その後知人の鑑定で、モリブデンの風化による黄粉状生成物や抜け殻状石英がみられ1988年に本鉱山で記載されたヘムス鉱(Cu6SnMoS8)を墨流し状部分に含むと判断された。
(写真⑦~⑨) 桧沢坑上盤脈産リッカルド鉱:リッカルド鉱(Cu7Te5)は非常に錆び易く、新鮮な破断面は銀白色を呈するが変色が進み最終的に紫色となる。このため肉眼判定できる数少ないTe鉱物とされる。本標本は自然テルルを伴い、ブルカン鉱やカラベラス鉱等のTe鉱物も含まれるとされるが素人には区別出来ない。
【寄稿】坂本憲仁(BS45)