趣味の話題 ~「楽石庵閑話」~【第66話】別子鉱山の鉛・亜鉛鉱石

「楽石庵閑話」~【第66話】別子鉱山の鉛・亜鉛鉱石

キースラーガー(別子型)鉱床は、黒鉱鉱床と共に火山性塊状硫化物鉱床に属し、前者は塩基性火山岩類と、後者は酸性火山岩類と夫々関係が深いとされる。また黒鉱が鉛・亜鉛成分主体に対して、別子型鉱石は銅主体で鉛・亜鉛成分は一般に少ない。このため三波川帯の別子型鉱床産の方鉛鉱・閃亜鉛鉱は、標本市場では無論、標本写真もついぞ見たことがない(切羽見学では所謂含銅硫化鉄鉱のみで、鉛・亜鉛鉱石を実際に目にする機会は全く無かった)。但し別子鉱山では別子本ピ下部で、断層に伴う後期鉱脈型鉱化作用により方鉛鉱・鉄閃亜鉛鉱を多産したとの資料があり、永年該当標本を探してきた。幸い馴染みの標本屋で、愛媛県の愛好家が手放した珍品を最近購入できたので紹介する。

別子鉱床産の硫化鉱物結晶は通常「ハネコミ」部分から産するが、その結晶は概して小さく独特の雰囲気を呈する。この「ハネコミ」は比較的高変成度の地域の鉱床にのみ認められ、鉱床母岩の褶曲軸部に沿い黄銅鉱が濃集した形で通常形成されることから、「ハネコミ」は高圧による変成分化の産物と解釈されている。一方で、今回紹介する標本は細かい水晶を伴い、空隙部に方鉛鉱・閃亜鉛鉱・硫砒鉄鉱の細かい結晶が確認でき、前述の「ハネコミ」産ではなく、鉱床下部の断層に伴う熱水性鉱脈産と思われる。

(1)別子筏津坑産の黄銅鉱「ハネコミ」

緻密な含銅硫化鉄鉱中に、細かい黄銅鉱結晶が一面に晶出し独特の外観を呈する。また稀に「ハネコミ」から産出する水銀四面銅鉱は、別子鉱山を代表する銘柄標本とされている。

(2)別子本ピ産熱水性鉱脈産鉛・亜鉛鉱石

菱餅状の硫砒鉄鉱結晶がみられることから、秩父鉱山大黒坑産では・・・との意見もあったが、細かい水晶が随所にみられ、その可能性は低いと判断された。

(3)硫化鉱物類

いずれも小さいが、それぞれ特有の結晶形を示し目視で判別できる。しかし黄銅鉱は、(1)で紹介したような明瞭な結晶形は示さない。

(4)不詳鉱物

また特異な外観の細柱状結晶や稍々青味を帯びた鉛灰色鉱物が確認できるが、その鉱物名は不明であった。

そこでこれらの不詳鉱物結晶の鑑定を、今年の名古屋ミネラルショーで知人のベテランマニア及びM博士お願いした。鉛灰色の結晶(二三枚目写真)は、皆サン一致して車骨鉱とのご意見!秩父鉱山大黒坑産の結晶との外観上の類似点も理解できる。一方で特異な外観を呈する長柱状結晶は(一枚目)、M博士も?であった。

なお文献にも、本鉱山からの車骨鉱産出記録があるとのことである。

秩父鉱山大黒坑産車骨鉱結晶の写真を参考に紹介しよう。

今回は予定を変更して、偶然入手した別子鉱山産の鉛・亜鉛鉱石を紹介したが、この標本については各位から色々なご意見が寄せられており、特にT氏は錫鉱物(黄錫鉱や赤錫鉱の産出記録がある)の存在有無に興味を持たれ、今後の検討課題と思っている。

【寄稿】坂本憲仁(BS45)

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