趣味の話題 ~「楽石庵閑話」~【第58話】日立鉱山の鉱石

「楽石庵閑話」~【第58話】日立鉱山の鉱石

日立鉱山は別子・足尾と共に日本三大銅山(小坂を加え四大銅山とする説も)として知られるが、それ程熱心に通った形跡はなく、どちらかと云えば忘れられた存在であった。これは美しい結晶鉱物を産出せず、希産鉱物も知られていないと云った理由が考えられる。ところJAMSTECがRe-Os同位体年代決定法により、日立鉱床の生成年代が日本最古のカンブリア紀であったと2014年に発表し、さらに保存鉱石標本から2019年に新鉱物「日立鉱」が発見されると云うおまけまで付き、日立鉱床への関心が高まった。今回は、戦後の新鉱床開発の歩みと共に、日立鉱床の特徴ある鉱石を紹介しよう。

火山成塊状硫化物鉱床である日立鉱床は、火山岩類及び砕屑性堆積岩類を源岩とする緑簾石角閃岩相~角閃岩相の変成岩中に胚胎された多くの鉱床群からなり、主に二つのグループに分けられる。即ち、赤沢層中部における下位の酸性~中性片岩と上位の塩基性片岩に挟まれるCu-Zn-Pb-Pyriteタイプと、大雄院層・赤沢層上部における厚い塩基性~中性片岩に胚胎されるCu-Pyriteタイプで、複雑な地質・褶曲構造を持つことで知られる。

さて日立鉱山では戦後も地質構造調査が進められ、本鉱床帯と入四間鉱床とは連続しているのでは・・・との仮説から入四間~笹目地帯で本格的な探査が行われ、s31年に新鉱体を補足しs33年に藤見鉱床が誕生している。さらに東部地域でs40年に大雄・不動滝鉱床を発見し、両鉱床群は主力鉱床として稼行された。前者は層位的に古い赤沢層中部に分布し下位の酸性片岩と上位の塩基性片岩に挾まれ胚胎し、後者は層位的に新しい赤沢層上部から大雄院層の塩基性片岩中に胚胎する。また広域変成作用に続いて接触変成作用を受けた藤見・入四間両鉱床では、黄鉄鉱の磁硫鉄鉱化が特徴とされる。

では主要鉱床の入四間・藤見・不動滝鉱床と、支山として稼行された諏訪鉱山の代表的な鉱石を紹介しよう。

(1)入四間鉱床

本鉱床は日立本鉱床帯の北西約1kmに位置し、落しの方向に竿状に延びる4個の鉱体よりなる。鉱質は本鉱床帯の含銅硫化鉱に比べて粗粒で黄銅鉱に富むとされる。本標本は入四間鉱床産鉱石の特徴を良く示す銅富鉱部である。

(2)藤見鉱床

藤見-入四間-高鈴-赤沢鉱床群は、本鉱床帯の北西に位置して、珪質片岩・緑色片岩・黒雲母石英片岩等を母岩とし6鉱体よりなる主力鉱床であった。本標本は後接触変成作用を受けたために、黄鉄鉱が磁硫鉄鉱化し、なお残留した巨大な黄鉄鉱が緻密な磁硫鉄鉱中にみられる。

(3)不動滝鉱床

日立本鉱床の東方約1,500mに北北東~南南西に延びる鉱化絹雲母片岩帯(大雄・不動滝帯)の、赤沢層上部層の緑色片岩中に4鉱体が胚胎する。本標本は不動滝鉱床の特徴である黒雲母と石英を伴い、細かい閃亜鉛鉱主体の鉱石である。

(4)諏訪鉱床

本鉱床は不動滝鉱床群の南端に位置しており、大雄院層に不整合に覆われた上部赤沢層中の母岩の片理に平行なレンズ状含銅硫化鉄鉱体とされ、局部的にテルル蒼鉛鉱等を産したとされる。本標本は黒雲母を伴う細かい黄鉄鉱主体で、黄鉄鉱中にTe・Biを微量含むとされる。

【寄稿】坂本憲仁(BS45)

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