趣味の話題 ~「楽石庵閑話」~【第61話】方珪石と鱗珪石

趣味の話題 ~「楽石庵閑話」~【第61話】方珪石と鱗珪石

シリカ(SiO2)は地殻の約60%を占め、その大部分は珪酸塩鉱物或いは石英だが、高温型の多形(同質異像)として方珪石と鱗珪石が天然で知られている。また窯業関係でも重要な材料としてその特性が研究されており、馴染み深い鉱物である。例えばクリストバライト(方珪石)は陶磁器生地中では特異な存在で、相転移に伴う異常膨張性により、焼成工程で冷め割れの原因になることがある。一方でこの異常膨張性を利用して生地表面に圧縮応力をかけ、高強度素材にすることもある。しかし素地内でクリストバライトを安定的に成長させるのは中々大変で、自然界で黒曜石中に色々な模様或いは球体を形成する条件とは、中々興味ある現象と云える。

さて方珪石と鱗珪石は、酸性火山岩より産出し、特に黒曜石からは方珪石が球状をなして産出するが(恐らく火山ガスの気泡跡)、今回は各地の著名黒曜石産の方珪石と熊本県石神山産鱗珪石を紹介しよう。

(1)長野県和田峠産方珪石

古代の石器に使われたことで知られる黒曜石中に、白い縞或いは斑紋状に含まれるものは装飾品として売られているが、球状をなすものは鉱物標本となる。断面(三枚目)では、内部構造は良く分からない。

(2)北海道白滝産方珪石

この辺りでとれる花十勝と呼ばれる黒・赤模様の黒曜石に、方珪石が花模様に入ったものは大変美しい 。

白滝地域では、鮮新世末期から第四紀にかけて珪長質マグマによる大規模火砕流の噴出が起こり、これによる玻璃質岩からは黒曜岩・真珠岩及び松脂岩の産出が知られ、黒曜岩と真珠岩とは互に漸移し、下部の熔結凝灰岩より真珠岩を経て上部の黒曜岩流に移化している。断面には、放射状の構造を示す標本もある。

(3)熊本県石神山産鱗珪石

昔から有名な標本で、石英安山岩の空隙に黒いパーガス角閃石と共に鱗珪石が六角板状の結晶をなす。

鱗珪石は、大気圧下では石英と方珪石との中間に安定温度領域を持つが、天然産では純粋なSiO2ではなく少量の不純物を含むため870℃以下でも晶出すると云われる。石神山は西方の金峰火山の溶岩ドームの一つで、角閃石(石英と記した資料もある)安山岩の隙間に六角板状の結晶を示す。

本標本も白っぽい安山岩上に多数の薄板状結晶がみられ、黒いパーガス閃石を伴う(三枚目の黒点)。

(4)男鹿半島のシリカ鉱物

シリカの結晶である水晶は、最も馴染み深い鉱物として石マニアの人気も高い。特に北鹿の浅熱水性鉱脈鉱床からは、黄銅鉱等の硫化物を伴って脈石として綺麗な水晶を大量に産し、かつてはズリで幾らでも拾うことができた。また装飾品としてよく利用される「玉髄」「瑪瑙」そして「蛋白石」は、結晶形を示さないガラス状のシリカとして様々な産状が知られている。現在はジオパークとして採集等は禁止されている男鹿半島で、観光用半島一周道路建設時に各所で産出したこれらの標本をついでに紹介しよう。

なお玉髄は潜晶質(微細な石英)、オパールは非晶質(通常数%~10%程度の水分を含む)、瑪瑙は筋状模様をもつ玉髄やオパールの混合物とされている。

また門前から塩瀬崎を横切る道路建設現場に露出した球顆状流紋岩から、立派な紫水晶が幾つか得られた。

【寄稿】坂本憲仁(BS45)

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